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Ⅵ:ウールとアメリカの人々

3:20世紀を迎えた毛織物工業

藤井一義 (マネジメント・コンサルティング取締役)
 一次大戦による戦災を全く受けずに戦勝国となったアメリカ合衆国は、積年の念願であった債務国から債権国へと転換できました。イギリス資本をはじめ旧大陸の制約からようやく解放されて、いよいよ“20世紀はアメリカのための世紀”といわれる時代が幕開けとなったのです。
 国際市場に早くから認められてきた綿花や綿織物工業と違って国内市場の中でアヴァレッジ アメリカンの需要を満たすことだけに終始してきた牧羊事業や毛織物工業が、一次大戦までに到達していた生産構造と大戦前後からはじまった設備合理化や技術近代化に向かって変化してゆく姿を振り返ってみることによって、その中に今日的な意味を見出したいと考えます。

(1):生産性追求の生産構造


 ウールから既製服まで一貫して常に生産性を追求してきたアメリカの毛織物工業は19世紀の終わり頃既に全体として世界一の巨大な生産構造を抱えながらその内側にある各企業は自由競争原理によって「たて」「よこ」双方に変転して止まることを知らない工業社会になっていました。
 アメリカ羊毛工業概観(毛製品輸出対策協議会発行)によって生産構造を見ると次の通りです。(註4参照)

 ①:緬羊頭数とウール生産


 1884年以来5000万頭前後の緬羊を飼育しオーストラリアに次ぐ世界第二の産毛国でしたが、1942年を頂点として減産に移り急速に羊毛輸入国に変ってゆきます。

 ②:生産設備(1919年現在)


   毛織機     62734台
   紡毛精紡機   2401千錘
   梳毛精紡機   2356千錘
   梳毛コーマー  2382台
 紡毛式を中心に膨大な精紡機を持っていましたが、老朽化がかなり進んでいて20世紀に入って急速に革新型精紡機を導入し梳毛式重点に切り換えてゆきます。
 自動織機を増台して梳毛織物を増産し衣料消費の急増に対応しています。

 ③:生産


 設備更新によって機械総数は急速に縮小しますが1934年−1939年平均で紡績糸及び毛織物の生産量は世界第一位、新毛消費量及び梳毛トップの生産量は世界第二位を占めています。
 衣料用毛織物は殆ど既製服市場に向けられ非衣料用は靴下、生産資材用、特にカーペットのような敷物製品の生産が非常に大きいシェアを占めています。

 ④:自由競争社会

 企業数、工場数、雇用人員から見て非常に多くの中小規模専業型の企業が北東部一帯に散在し、ごく少数の大規模兼業型の企業が点在して全体としては非常に平板な巨大な競争社会が形成されていました。
 中小企業は景気動向による生産調整の役目を負わされ、表向きの名称や形態を残しながらも次第に資本力の強い大企業が実質的な経営支配を進めてゆきました。その結果二次大戦前にはバーリントン、J.P.スティヴンスのような寡占的な綜合繊維メーカーが出現していたのです。

 ⑤:経営


 量産志向、生産性向上のため生産品種や工程の統合化、平準化、単純化が行われ革新型設備や技術の導入によって、絶えず経営革新(リストラクチャリング)を怠りませんでした。
 アメリカ合衆固持有の激しい変化と流動性に富んだ経済社会は、20世紀を待たずに出来上がっていたと言えるでしょう。

(2):規格による管理

 19世紀末ライフル銃の互換性生産の影響を受けて繊維素材(ウールや綿花等)に規格を設けて工業製品の品質管理や試験方法の標準化合理化に役立てようとする議論が強くなりました。
 礼服、作業服、戦闘服等軍隊制服の繊維素材に関する基礎研究は軍部所属の研究所で長らく積み重ねられていましたが、その研究結果を資料として当時の学識経験者は繊維の選択基準となる「米国材料試験規格」(ASTM)を策定しました。(註5参照)
 ASTMは策定後直接生産企業の品質管理に大いに役立つばかりでなく国内国外の繊維製品の取引契約には仕様規格として現在でも利用されています。
 ウールを使用した紡績糸、毛織物、フェルト、敷物あるいはウール製品に対する化学処理加工用素材の品質の評価や選択を行う際に実際的で公正な基準となる試験方法や規格体系が規定されています。
 生産性を志向する20世紀の毛織物工業の生産構造の背景には、生産管理や品質管理に関する歴史的伝承的な手法を合理的にしかも実際的に再編成して近代的な工業生産に移行しようとする努力が営まれていたのです。

註1:「工業主義」:欧米経済史(三訂版)=近代化と現代=関口尚志、梅津順一著(財団法人放送大学教育振興会発行)P98−99を参照して下さい。
註2:パリ市民と既製服:おしゃれの社会学:北山晴一著 朝日選書#418(朝日新聞社発行)P119−183第三睾「既製服の展開」を参照して下さい。
註3:THE GOLDEN FLEECE:(株式会社ブルックスプラザースジャパン企画発行)から引用させていただきました。
註4:アメリカ羊毛工業概観 発行:毛製品輸出対策協議会(昭和39年10月20日) 編纂:毛製品統計研究会
註5:A.S.T.M.(アメリカ材料試験協会)の発行する規格集を指しています。1902年本協会は試験方法の標準化及び研究業務の推進を事業目的として発足し、現在フィラデルフィアに本部をおいて活動しています。


資料提供:ザ・ウールマーク・カンパニ ー(IWSマンスリー連載より)





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