オーストラリア、ニュージーランド出張記

ベストーウールクラブ

羊毛ふとんの高級化と品質安定化を目指し、1985年に結成されたベストーウールクラブ(略称=BWC・麻生晋会長)は今年度事業計画の柱として、3月11日~20日の10日間、オーストラリア、ニュージーランドの羊毛事情を視察する研修旅行を実施、所期の目的を達成し無事帰国した。一行は15人はザ・ウールマーク・カンパニー、ニュージーランド羊毛公社を始め、両国の羊毛産業の中枢的な機関を訪問、関係首脳との親交を深めると共に、活発な意見交換を行い、今後の羊毛ふとん事業の活性化に示唆をもたらした。現地での視察研修の模様をルポした。

日本向けの開発を、Gラベル普及強化を確認

ザ・ウールマーク・カンパニー

BWC(加盟正会員十四社、賛助会員四社)の研修旅行には、麻生会長、米山元章会計監事ら十五人が参加、オーストラリア、ニュージーランドの羊毛産業の最前線を視察した。

今回の研修ポイントとして、

  1. ザ・ウールマーク・カンパニー
  2. GHミッショル社
  3. ニュージーランド羊毛公社
  4. ロンツ羊毛研究所
  5. シーワード・タウン牧場

の五つを挙げた。

メルボルンにあるザ・ウールマーク・カンパニーのウールハウスに到着した一行は、インテリア・テキスタイル部統括のジェフ・ロビンソンマネージャーらの出迎えを受けた。

同マネージャーは歓迎の意を評した後、ビデオとスライドを使って、オーストラリア羊毛の現状と同カンパニーの今後の運営について説明理解を求めた。

同氏は「欧米と比べオーストラリアウールの日本での消費量は少ない。ふとんに適してないという声もあるようだが、ふとんに適した二十九~三十四ミクロンのウールもたくさんあるので、もっと使用してほしい」と訴えた。更に、日本市場に適用する製品開発にも取り組んでいるとして、ウオッシャブル機能の羊毛ふとん(敷きパッドはスライバーニット)を提案、注目を集めた。

また、二〇〇五年の市場の展望として、ストレス社会と言われる現代の消費者は、家庭で心をいやすため、寝装品・インテリアに投資(金をかける)する時代になると予測、羊毛製品の可能性に期待を寄せている。

最後に麻生会長が「ウールマーク・カンパニーの日ごろのPRや的確な指導に感謝している。ウールマークのレベルアップを図るために、羊毛原料の原産地を明確にし、品質の最低基準を明文化することが重要だ。BWCとしてもゴールドラベルの普及に力を入れていく考えなのでバックアップしてほしい」と更なる協力を呼び掛けた。これを受けて、同カンパニーではゴールドラベルのプロモーション強化を約束するとともに、二種類のコーナーネームと下げ札を提案した。
注:文中のGマークは、ウールマーク・ゴールドラベルのことです。

洗化炭技術に注目、ウール・トップの加工で

GHミッショル社

メルボルンから国内線で約一時間。”芸術が香る街”と言われるアデレードにある世界最大級のウール・トップ(梳毛糸)メーカー、GHミッショル社(正式には&サンズ(株))を訪問した一行は、ゼネラルマネージャーのグラハム・ダフィールド氏らの歓迎を受け工場を案内された。

同社は一八七〇年に創業、百三十周年を迎える歴史と伝統に培われた企業で、ウール・トップを始めトータルの生産量は一ヶ月平均で三千二百トンを誇る。

同社の生産工場のレイアウトは大きく分けて洗浄工程とトップ加工工程。前者では”洗化炭”(せんかたん)技術を採用。これはグリース(脂付)の羊毛を洗って乾燥させる間に、硫酸と羊毛の繊維に付着した草や木の実などの不純物を炭化させ、エアを使って容易に落下させるシステムのことで、四ラインが導入されている。洗毛、乾燥した羊毛は、適度な油を付与し、カーディング、ギリング、コーミングを経ながら、羊毛繊維の強靭さと光沢を損なうことなく、長い繊維から短繊維を分解して、平行に並べて一定の太さの篠(しの=ロープ状の繊維束)にされる。ちなみにカード機は十八台が稼動。

この篠を引き伸ばして、よりをかけ、コーマ糸などの紡績糸になるまでの一貫作業をつぶさに見学した一行は繊維長や品質面をチェックする試験室を視察、安定した品質を誇る同社の”原点”にも関心を示した。

この後、会議室でG・ダフィールド氏GMを囲み、意見交換。席上同氏から「日本市場との交流は、名川織商さんを通じて、二十五年くらいになる。当社にとって、非常に大事で有望なマーケットだと認識しており、今後も皆さんとの関係をより深くしていきたいので、本日は大いにディスカッションしたい」とエールが送られた。

これを受けて、団員からは、生産工程面での質疑以外に、従業員の就業体制や工業汚水処理など、環境面に対する企業の取り組み姿勢について質問があり、的確な回答を得た。

5月に新ビジョン、羊毛新時代の萌芽を模索

NZ羊毛公社

BWC研修ツアー一行はオーストラリアに別れを告げ、ニュージーランド第三の都市で”庭園の街”の異名を取り、ガーデニングが盛んなクライストチャーチに到着。ニュージーランド羊毛公社を表敬訪問した。

マネージング・ディレクター、ジョン・グレンジャー氏と日本支部代表、藤田行輝氏が出迎え、一行の労をねぎらった。

J・グレンジャー氏は「ニュージーランド、オーストラリアに限らず、世界の牧羊業者は危機に直面している。当公社でも、マッキンゼー調査会社に委託して、牧羊業者の進むべき道を模索しており、五月にもその答申が出るだろう」と現状を説明。最近の羊毛産業の動きとして、「メリノの二十四ミクロンまでのアパレル用のファインウールは価格的にも安定しているが、ミドルレンジのふとん用は非常に厳しい状態だ」と苦しい立場を示唆。

羊毛は非常に不思議な構造をしており、他の繊維がせいぜい2%位の水蒸気しか吸わないのに、ウールは非常に良く吸収し、30%以上の湿度を吸っても湿った感じを出さない。また、羊毛繊維は吸収した水分を外部に放出する働きもしている。したがって、ウールは水分の分配とわずかの凝集の役目をしていると見ることが出来る。

同公社によると、九九年の日本市場でのふとん用の羊毛使用量は前年比で二〇%くらいダウンしているという。

ニュージーランドの牧草業者もオーストラリアと同様に転業を余儀なくされており、牧牛・鹿、酒造業(ワイン)などに活路を求めている。

こうした中、五月にクライスチャーチで開かれるIWTO(世界羊毛輸出機構)の総会が厳しい環境打開に向けて一石を投じる可能性も否定できず、同公社でも期待を寄せている。

ニュージーランドでも、難しい局面を肌で感じたBWC一行を代表して麻生会長は、「羊毛に限らずふとん市場の将来性は、流通革命にかかっているといっても過言ではない。『ファーンマーク』にも大きな転機がきているのも事実であり、新しい芽が育つよう、お互いに良い形で模索していき、新たな一ページ開いていきたい」と意欲的になあいさつを行った。

新鋭機で羊毛解析、520ヘクタールの羊牧場も見学

ロンツ羊毛研究所シーワード牧場

クライストチャーチには、羊毛の専門研究機関、ロンツ羊毛研究所がある。三十三年前(一九六七年)に設立された同研究所は、

  1. 牧場業者
  2. 国内アパレル&カーペットメーカー
  3. 海外企業
  4. 国税
  5. 各種プロジェクトのテスト委託

—からの資金投入で成り立っており、百五十人の研究員を抱えている。

一行はジャック・ワット主任研究員の引率で、羊毛原料から製品までの加工技術とそのパイロットプラントを熱心に見学した。

特に四種類の羊毛を同時にカーディンクし、カサ高や弾力性、感触の違いを容易に比較できる特殊構造で独自開発のミニカード機は団員の関心を誘った。

このほか、二種類の針を内蔵し、カーペット、不織布などの生産に威力を発揮するニードルパンチ機、断熱材などのノリ付けをするボンティングマシンを独自に開発。また、物性などをテストする試験室には、最新の機器が導入され、摩擦堅ろう度、引っ張り強度など、様々なデータの解析が行われていた。

同研究所は、「ロンツデベロップメント」として、収益性を伴う企業の顔も持ち合わせている。事業内容は製品開発面などのコンサルティング、パイロットプラントでのモノづくり、カーペット技術セミナーの開催や技術者の養成など。

一行は、最後の視察先、シーワード・ダウン牧場を訪問。五百二十ヘクタールという想像を絶する広大な牧草地に放牧されている二千頭余りのテクセル主(交配種)が、ふとん用に使用されているという。

毛刈り作業は、毎年四、五月から八月にかけて行われるため、実際に見ることができなかったが、作業場で待機する雌の羊にしばしスキンシップ。また、最近刈り上げた羊毛を手に取り、その感触を味わった。

今回の研究旅行を総括して大賀茂幸氏が、「現地に来てみて、羊毛の厳しい現状が分かり大変有意義であった。これは、供給業者や我々にも責任の一端があると認識している。今後は、切磋琢磨して羊毛ふとんの品質を高め、その良さを消費者にアピールしていきたい」と決意を述べた。

(寝装リビングタイムス2000年4月21日掲載記事)