ウール繊維についてのレポート

2. 結果

2.1 試験に使用した毛布とキルトの仕様

毛布

試験に使用した毛布の仕様

 アクリル毛布純毛毛布
大きさ(cm)210×160210×160
質量(g/㎡)670680
厚さ(mm)14.312
緯糸3d アクリル65%
6d アクリル35%
ウール100%
平均繊度(μ)2221/22
経糸綿100%ウール100%

両毛布は物理的に非常に良く似た内容の仕様である。

キルト

試験に使用したキルトの仕様

 ABCD
\ 詰め物ウールウールポリエステルポリエステル
キルト幅(cm)20102010
キルト糸量(g)1382140213821342
製品質量(g/㎡)778.5816.2806.7832.1
厚さ(mm)23.52035.535

ポリエステル綿は嵩高性であるため、ウールと同じ量の詰め物をするとウールキルトの方が薄くなるが、4種のキルトとも物理的仕様は非常によく似ている。

保温性の試験は次ぎの条件で行った。
スキンモデル:20℃、30%RH、或いは35℃、40%RH。
(水分移動抵抗試験に使用)
マネキン人形:15℃、50%RH(毛布の試験だけに使用)
実用試験:23℃、80%RH(毛布の試験だけに使用)

2.2 スキンモデル(毛布とキルトの両方に使用)

人間が静かに安定した状態で就寝している状態を模擬したもので、発汗させない状態にも、発汗させた状態にも如何様にも出来る。大事な試験データとして熱貫流抵抗値、水分移動抵抗値、蒸気浸透指数、蒸気吸収指数、水分飽和指数等々を調べることが出来る。

毛布

両方の毛布とも熱貫流抵抗値は殆ど同じであったが、純毛毛布の方がアクリル毛布よりも水分の移動抵抗値が8%低く、水分の透過指数が高かった。すなわち、純毛毛布の方が湿気をよく吸ってくれることがわかる。
また、短時間での吸水率は純毛毛布はアクリル毛布の7倍あり、純毛毛布は水分に対して高い飽和能力を持っていることがわかる。

結論として、”一枚の布帛として静止した状態での毛布の水分移動特性を見た場合、純毛毛布はアクリル毛布、或いは綿毛布よりも水分の移動に優れている。すなわち、純毛毛布は吸湿・放湿性に優れている”と言える。また、
“飽和水分量についても純毛毛布の方が多いので、実際の使用条件下における快適性も純毛毛布の方がアクリル、或いは綿毛布に比べて優れている”ことが判る。

キルト

キルト製品はいずれも毛布よりも熱貫流抵抗値は高い。これは、多分毛布よりも厚さが厚いことによるものである。
キルティング幅が20cmのものはキルティング幅が狭い10cmのものよりも熱、及び水分の移動抵抗値が高い。これは広いキルティング幅のものは狭い幅のものよりも製品の厚さ減少が少なく、したがって、含有空気量が多いことによる。
ポリエステルキルトはウールキルトに比べて熱、及び水分移動抵抗値が高くなっている。これは、多分ウールキルトよりも厚味が厚くなっているためである。

しかし、水分の吸収と飽和水分量についてはウールキルトの方がポリエステルキルトよりもずっと多くなっている。
結論として”吸湿性の多い、少ないは実際の使用条件下での快適性を決定付ける重要な要素であり、ウールキルトの方がポリエステルキルトよりも数段勝っている”と言うことが出来る。

2.3 銅製マネキン人形(毛布の試験だけに使用)

この試験の主たる目的は人間の快適な睡眠環境を確認することにある。この試験において毛布のドレープ性が熱貫流抵抗と水分の移動抵抗に非常に重要な役割を果たしていることが判った。マネキン人形には綿100%のツーピースのパジャマを着せ、綿100%のシーツを掛けたフォームラバー製のマットレスを敷いたベッドに寝かせた。マネキンの頭はフェザーを詰めた枕に綿100%の枕カバーを掛けた枕に乗せた。

マネキンは綿100%のシーツで全身、或いは部分的に覆い、当該毛布を掛け、温度15℃、相マネキンを完全に覆った時も、部分的に覆った時も共に断熱効果については8から20%、透湿性については7から10%アクリル毛布よりも純毛毛布の方が高くなっている。

純毛毛布の快適性の範囲は0.3℃から24.7℃、アクリル毛布は2.5℃から26.7℃と、アクリル毛布より若干薄めであるにもかかわらず、純毛毛布は2.2℃も寒い環境に適応し得るのである。

マネキン人形を使って人間の睡眠を摸した実験の結果、”全く同じ標準的な寝具と寝巻きの組み合わせでも、純毛毛布はアクリル毛布や綿毛布よりも暖かく、しかも、湿気の移動が良いために寝床内をジメジメさせることが無い特徴を持っている”と結論付けることが出来る。

2.4 実際の着用試験(毛布のみで実施)

この試験は、平均年齢19.8歳、平均体重72.OKgの4人の被験者を対象として行った。被験者には毛布の素材を知らせず、23℃、80%RH、空気の流れを0.5m/秒と、毛布の高温常態への適応性を見るために比較的高い温度に調整した部屋で試験を行った。被験者には、各試験とも6時間ずつ就寝してもらい、どの試験も各毛布について2回ずつ試験を繰り返した。寝具と寝巻きはマネキンの場合と同じとした。

最初の観察は環境温度の設定が高すぎないかと思われる状態での観察であった。純毛毛布はイタリアのように比較的暖かい地方で製造され、使用されているので、比較的高い温度環境に向いているのではないかと言うことを確かめたかった。すなわら、ウールの暖かさについては良く知られているが、逆にウールの清涼感についての評価も試みたかった。
アクリル毛布の場合、就寝者の肌とパジャマとの間の湿度は純毛毛布を着用した時の14.9%の高湿度を示した。アクリル毛布を使用した場合、純毛毛布を使用した時に比べて、被験者の体重の減りが2.9%も多く、発汗量が3.6%も多いことが立証された。と、同時に、純毛毛布はアクリル毛布に比べて、50%も多くの汗を吸っている。にもかかわらず、被験者が着ている綿製のパジャマは濡れた感じが無く乾いていた。ウールのこの優れた湿気の移動性と吸収性の良さによって、やや暑い環境下でも、着衣の”涼しさ”を保つ結果となった。その理由は、発生した汗を蒸発させ、気化熱によって、体温を奪い、被験者の肌を冷やす働きをしてくれるのである。

被験者の皮膚温度が15%上がると言うことは、平均して身体温度が26%も上昇したことに相当する。すなわち、純毛毛布に比較して、アクリル毛布は体温を29%も上昇させることがわかる。暖か過ぎる環境下において、純毛毛布はアクリル毛布よりもより良い温度調整を果たしてくれる。このことは、アクリル毛布を着用した時には毎分80回と言う異常な心拍数を示しているにもかかわらず、純毛毛布の場合には毎分60回と言う正常な心拍数を示すことによって確認された。このことは、アクリル毛布では安眠できないことを物語っている。

以上の客観的評価結果は、被験者の毛布に対する主観的評価結果によって裏付けられた。アクリル毛布を使用した場合、被験者は、全試験の75%で暖かすぎるとか、暑いとかの不快感を抱いている。また、88%の試験においてジメジメするとか、べトべトして気持ちが良くないと言う感じを持っていた。それに対して、純毛毛布の場合には、それぞれ38%と、50%に過ぎなかった。

1(非常に良い)から5(非常に悪い)の5段階で保温性について評価したところ、純毛毛布についての被験者達の評価結果の平均値は2.13(良い)、アクリル毛布の結果は3.88(悪い)であった。この条件下で、純毛毛布を自ら進んで使用したいと言う被験者は75%もいたが、アクリル毛布を使いたいと言う被験者は25%に過ぎなかった。

実用試験の結果、次のように結論付けることが出来る。

  1. スキンモデルとマネキンによる測定によって、確認されたことは、純毛毛布はアクリル毛布よりも湿気の移動や吸湿性が良い。
  2. 暖かい環境のもとで純毛毛布はアクリル毛布や綿毛布よりも毛布の下の寝床内温度を良い状態にコントロールする働きをしてくれる。
  3. 純毛毛布の生理的快適性には、環境室での客観的な測定結果と、純毛毛布がアクリル毛布や綿毛布より良いと言う被験者達の主観による判定結果とが良く一致いている。

3. 結論

ウールのこの不思議とも云うべき温熱的特性はポリエステルやアクリル繊維と比べて、卓越した保温特性を持っていることがはっきり判った。これは、羊毛繊維の不思議な化学的、形態学的構造によって醸し出されている。羊毛繊維の表面はキューティクルと言う疎水性の物質で、液状になった汗は吸収しない。そのことが、就寝者の肌を冷やす働きをし、”ベトベト”するのを防いでいるのである。

一方、羊毛繊維の内部はコルテックスと呼ぶ親水性のもので、蒸発した汗を吸収し、吸水量が自重の30%以上に達しても湿った感じを与えない。羊毛繊維のこの疎水性と親水性とを同時に持っていると言う二重構造が織り物の含んでいる空気の湿度をコントロールして、ウールの断熱性を一層高めている。

織り物が持っている空気の量はその織り物の構造によって決まる。この空気はウールの7倍以上の高い熱遮断特性を持っているが、空気の湿めりの増加につれて、その空気の熱伝導性は増加する。