ウールの室内空気浄化作用について

1.はじめに

シックハウス、病気を生む家、そんな家があって良いはずが無い。家は私たちを健康に育み、生命と財産を守ってくれるシェルタ―でなくてはならない

ところが、建材や家具などが発散するホルムアルデヒドなどによって家屋内の空気は、私たちの健康を蝕む有害な化学物質で満ち満ちている。私たちの住まいは「化学薬品の巣」と化している。その量はますます増加する傾向にある。

そこで私たちは、その有害物質から身を守るための正しい知識を持ち、自分で、自分の身を守る知恵を持つことが必要となる。
すなわち、「9.むすび」で述べるように「一番安くて、しかも、最も効果的な方法として、室内にウール製品を置く」と言う簡単な知恵を持つことである。

それは何故か?
以下に詳述するようにウールは“シックハウス症候群”や“化学物質過敏症”などの原因となる諸々の化学物質をよく吸着し、室内の空気をきれいにする働きをすることが証明されたからである。

 

2.室内空気は化学物質で汚染されている

私たちの家庭の部屋は、押し入れ、天井、壁、家具、床などに使用されている合板類や壁紙、塗料などから揮発するいろいろな有機化学物質によって、想像を遥かに上回る量の化学物質で汚染されている。

Fig. 1は大阪大学理学部の植村先生が住宅の建材などから揮散する主な汚染物質についてまとめたものである(平成8年3月13日・朝日新聞による)。
これらの揮散性有機化学物質(VOC)が一般家庭の中に、深く、広く、忍び込んでおり、めまい、頭痛、吐き気などを訴える“シックハウス症候群”や“化学物質過敏症”などが社会問題となっている。
なかでも、発がん性物質と言われている「ホルムアルデヒド(HCHO)」の増加が健康被害の大きな問題となっている。

 

3.ホルムアルデヒドとは

刺激臭のある無色の気体で水によく溶ける。ホルマリンはこの水溶液で殺菌剤、防腐剤などに使用されている。
ホルムアルデヒドはメチルアルコールの蒸気と空気との混合気体を赤熱した白金、あるいは網の中を通すことによって酸化させて造ることができる。

2CH₃OH+O₂→2HCHO+2H₂O


ホルムアルデヒドの人体に対する影響は0.1ppm位で刺激臭を感じ、増加するに従って、目や鼻腔への刺激、皮膚や肺の炎症、不快感、流涙、くしゃみ、せき、吐き気、呼吸困難を来たし、100ppm以上になると死に至ると言われている。

長期暴露による遺伝毒性(DNA損傷、DNA鎖切断 等)は陽性との報告が多い。

また、ラットの発がん性試験では、
18mg/m³(15ppm)群で147例中69例に、12mg/m³(10ppm)群では90例中20例に、7.2mg/m³(6ppm)群では90例中1例で扁平上皮がんを主とする鼻腔腫瘍が認められたと報告されている(厚生省「快適で健康的な住宅に関する検討会議報告書」)。

最近では、殆どの家具がこの危険なガスを発散する合板で造られている。合板は太い丸太を「かつらむき」して薄い板を造り、木目が交差するように何枚も張り合わせて造った板である。かつては、その丸太を輸入して国内で生産していたが、自然保護の立場から丸太の輸出を禁止する国が増え、現在では、現地で合板に加工したものを輸入するケースが多くなった。その方が価格的にも安くメリットが多い。
しかし、合板を造る際はホルムアルデヒドを多量に発散する接着剤を大量に使うにもかかわらず、その管理が出来なくなった。

合板はJAS規格によって、F₁、F₂、F₃の3等級に分類されているが家具や建材に使用されているものは価格的に普及品のF₃が多く用いられている。ところが、F₃はF₁の約20倍のホルムアルデヒドを出すと言われている。
しかし、家具、建材等については現在のところ何の規制も無く、室内はホルムアルデヒドによる汚染が増加の一途をたどっている。
生まれたばかりで全く抵抗力の無い赤ちゃんの寝ている部屋に、新しいベビー箪笥を置いた場合、赤ちゃんは皮膚障害を起こす危険にさらされる。

 

4.我が国のホルムアルデヒド濃度のガイドライン

住宅に使用される建材等から室内に放散されるホルムアルデヒド等の化学物質による健康被害を少なくするために、我が国も遅まきながら、平成8年7月に学職経験者、関連業界、関係省庁(建設省、通産省、厚生省、林野庁)からなる「健康住宅研究会」(委員長/今泉勝吉 工学院大学名誉教授)が設立され、調査検討が行われた。

その結果、昨年6月に厚生省から、ホルムアルデヒドの室内濃度の指針値が発表された。現在のところ、まだ努力目標であり強制力を持たないが、「30分平均値で1立方メートル当たり0.1㎎以下」と世界保健機関(WHO)のまとめたガイドラインに沿った数値となっている。
この値は0.08ppmに相当する。

すでに規定されている各国のホルムアルデヒド濃度の室内基準は次のようになっている。

アメリカ・・・・・・・0.2~0.5ppm
カナダ・・・・・・・・0.05ppm
ドイツ・・・・・・・・0.1ppm
スウェーデン・・・・・0.1ppm
オランダ・・・・・・・0.1ppm
デンマーク・・・・・・0.12ppm
日本・・・・・・・・・0.08ppm
(平成9年7月25日・日本経済新聞による)

 

5.化学物質過敏症

シャンプーや化粧品を使っただけで息苦しくなる。居間にいると手足が冷え頭が激しく痛む。戸外でもかすかな排気ガスやペンキの臭いで吐き気や目まいがする。このように普通の人には全く感じない超微量の化学物質にも反応する症状を起こす人が居る。このような症状を化学物質過敏症と言う。

化学物質過敏症の定義については、現在まで我が国では研究も少なく、学会等でもあまり議論された形跡が無いが、研究の進んでいる米国の研究者の間では、「一般的に多量の化学物質に暴露されて、一旦過敏症を獲得するとその後、極めて微量の同系統の化学物質で種々の臨床症状が出現して来る状態」と言われている。

すなわち、「われわれの体内には化学物質に耐えられるコップがあり、それが一杯になるまでは全く気づかないが、化学物質を大量に浴び一度あふれると様々な症状が表面化する」(平成10年1月25日・朝日新聞による)。

そのため、衣類、食品、雑貨等に含まれている極微量の化学物質に接触するだけで過敏に反応する。その結果、めまい、頭痛、吐き気、皮膚炎等々、自律神経障害、精神障害、嗅覚・視覚など感覚器官の異常、抹消神経障害など多岐にわたる症状が現れる。

北里大学医学部の宮田幹夫教授は「日本では軽症を含めれば、十人に一人の割合で居ると考えられる。だが、心の病、更年期障害などと片づけられている例も少なくない」という。

 

6.「ホルムアルデヒド」は室内排気型暖房機器によっても大量に発生する

平成10年1月25日付け朝日新聞の報道によれば、全国23の研究機関が参加して調査した「室内汚染の全国実態調査」の結果、

  1. 家屋内のホルムアルデヒド濃度は、戸外の7.8倍にも達している。
  2. 家屋内のホルムアルデヒド濃度は、新築、中古住宅による差はほとんど無い。
  3. その理由は、石油ファンヒーターなど室内排気型暖房器具から大量のホルムアルデヒドが発生している。
  4. 新築病と言われてきた室内汚染の問題が、古い住宅でも無視できない。

事が分かった。

 

7.ウールが室内の空気汚染防止に効果があることが判明

1950年代後半から60年代前半にかけて、大気汚染が人々の健康に影響を及ぼすことが社会問題となった。特に、長時間を過ごす室内の汚染が健康被害に及ぼす影響度が大きいと屋内の汚染と屋外の大気汚染との関係を見るためにMoscow(1)、London(2)、Cincinnati(3)、Rotterdam(4)の四都市で二酸化硫黄(SO₂)の濃度について比較測定が行われた。

  1. Ts. P. Kruglikova and V.F.Efimova. Giena I Sanitariya, 23.75(1958)
  2. M. L. Weatherly, Royal Society Health Exhibition, London, 1966
  3. R. J. Shepherd, G. C. R. Carey and J. J. Phair. Arch. Industy. Hlth. 17. 236(1958)
  4. K. Bierstecker, H. de Graaf and Ch. A. G. Nass. Int. J. Air Water Poll.9,343(1965).

その結果によると、Moscow、London、Cincinnatiの三都市については、家屋内の二酸化硫黄の濃度は屋外の約半分に減っていることが分かった。ところが、1964年の冬に60家庭について調べたRotterdamだけは築後45年の古い家では屋外に対して平均25%、新しい家では殆ど無視出来る程度にまで屋内の汚染濃度は減少していることが分かった(Fig.3、Fig.4参照)。(注:Fig.3の一軒の家で屋内のSO₂濃度が屋外に比べて高かったが、これは暖房装置の故障であることが分かった。)

この差が現れた理由について分析・検討した結果、Moscow、London、Cincinnatiの住宅に比べて、オランダでは室内装飾にウールが非常に多く使用されているためであることがわかった。とくに、オランダの家庭ではウールカーペットが広範囲に使われており、それが室内の空気を浄化していることがわかった。
すなわち、ウールは各種の末端基を多く持っているため、化学物質をよく吸着することが実証された。

 

8.ウールの室内空気浄化能力についてWRONZが追試験で実証

ニュージーランド羊毛研究所(WRONZ,Wool Research Organization of New Zealand)のS.M. Causer等がウールカーペットを使って、ウールが空気中の化学物質を素早く浄化する能力を持っていることを立証した。

この試験では健康に害を及ぼす代表的な汚染物質であるホルムアルデヒドと二酸化窒素について試みている。即ち、環境測定装置の中に①ウールカーペットを敷いた場合、②ナイロンカーペットを敷いた場合、③何も使用しない場合について、420ppmと言う高濃度のホルムアルデヒドで汚染した空気を入れた。その結果、ウールカーペットを敷設している場合には4時間後にはホルムアルデヒドが殆ど無くなっていることが確認された。

同様に、5ppmにした場合には40分できれいな空気に浄化されることがわかった(Fig.5参照)。二酸化窒素を使った試験においても、全く同様にウールカーペットの持つ浄化能力が立証された(Fig.6参照)。

しかも、この浄化能力は一時的なものではなく、30年にも及ぶ長期にわたって、室内汚染物質を吸着し続けると報告している。

さらに、一度吸着した汚染物質はウールとの化学結合によるものであり、外部に放出しない特徴を持っているとも報告している。




THE ROLE OF WOOL CARPETS IN CONTROLLING
INDOOR AIR POLLUTION
S.M. Causer, R.C. McMillan, W.G. Bryson
Wool Research Organisation of New Zealand (Inc.) Christchurch, New Zealand


THE ROLE OF WOOL CARPETS IN CONTROLLING
INDOOR AIR POLLUTION
S.M. Causer, R.C. McMillan, W.G. Bryson
Wool Research Organisation of New Zealand (Inc.) Christchurch, New Zealand

 

9.むすび

ウールは室内空気を浄化する、非常に優れた物質であることが立証された。
したがって、私たちが室内に充満している有害物質から身を守るために、「ウール製品を室内に置くことが、最も安く、最も効果的で、しかも、最も手軽い出来る対策である」ことがわかった。

特に効果的な方法は、汚染物質との接触面積の大きいウールカーペットを部屋に敷くことである。カーペット1m2の空気との接触面積は、直径35μのウールを、1,000gr/m2使用したとすると、少なくとも100m2の面積に匹敵し、室内に大きな空気浄化工場を持ったことになる。このように、ウールカーペットを部屋に敷くと言うことは、私たちに、温かさと安らぎを与えてくれるだけではなく、部屋の空気をきれいにし、私たちの健康増進に役立ってくれることになる。

勿論、ウールのカーテン、ウールの毛布、羊毛ふとんなどでも十分その効果は期待できる。

1998年3月