【羊毛講座2】ウールを供給する人々【藤井一義】

18世紀イギリスはついに”世界の工場”としての位置付けを確保しました。伝統的な「羊毛生産国」としてヨーロッパ諸国の毛織物工業にウールを供給してきた従来の「役割」を新大陸や南半球全域に拡大したので原毛供給力は飛躍的に増量されました。そのうえさらに、平和な時期は人口の増加と衣料生活レベルの向上に伴い、戦争が起こればそのたびに軍需特需にめぐまれて、ウール製品の需要は増加につぐ増加を続けてゆきましたから、イギリスを先頭にヨーロッパの毛織物工業は世界中の全市揚に向かって目覚ましい発展を遂げました。したがって、”ウールの世界工場”の機能は南北に分割されて、南半球ではウールの生産と供給が行なわれ、生産量のほとんどが北半球に運ばれてウールの製造加工と製品消費が行なわれる「分業の図式」が、次第にはっきりした姿に出来上がっていったのです。羊が豪州に上陸してから約200年、現在行なわれているウールの生産と供給から見ていきましょう。

1.世界のウール生産量

世界のウール生産は1980年から1990年まで大幅に上昇し、以後急速に下降して94年現在では80年当時のレベル以下に下落、なお減少を続けています。

(1)資料1の通り北半球の多くの国々で旧ソ連と中国以外はそれぞれ少量づつウールが生産されていますが、南半球ではごく限られた国々で比較的まとまった量が生産されており、南半球合計としては常に北半球より多い生産量を続けています。

(2)南半球の主要5カ国が世界のウール生産量の約半分を生産し続けており、旧ソ連および中国が約20〜23%のシェアを持っているので、これら主要7カ国によって世界の生産量の70%以上が占めてられていることになります。

(3)旧ソ連の政治体制が崩壊してから、急激に生産は減少に追い込まれており、中国では太番手ウールの生産ばかりで衣料用細番手ウールを大量輸入しているくらいなので、世界のウール生産はますます南半球に傾斜して、現在既に過半数を大きく越えていると考えられます。

2.世界のウールの輸出入

現在世界中で行なわれているウールの輸出輸入は両方とも、1980年から90年にかけて減少しましたが、それ以後増加していづれも1980年当時のレベルを相当上回っています。

(1)資料2の輸出シェアに見られるように、世界のウール輸出国は生産国以上に南半球に集中しています。オーストラリアだけで世界のウール輸出の約半分を占め、南半球の5大産毛国だけで、世界のウール輸出国として常に圧倒的なシェアを維持していることがわかります。

(2)資料3に見られる通り、世界のウール輸入はごく僅か例外的な数字を除いて、北半球の国だけで行なわれています。したがって、世界のウールの生産と供給は
・北半球で生産されるウールは北半球同士で取り引されるか、あるいは自国内で消費されてしまいます。
・南半球で世界の過半数以上のウール生産が行なわれ、そのほとんど全部が北半球に輸出されて加工消費されます。
以上のような南北の関係から、もし南半球のウールの生産供給に支障が起こるようなことになると、北半球の毛織物工業は当然のことですが、ウールの製品消費市場に大変な影響が及び、世界工場の分業体制が崩れてしまうことになりかねません。