【羊毛講座2】ウールを供給する人々【藤井一義】

3.南半球でウールを生産する人々

南半球の「ウールの生産供給市場」から、北半球の「ウールの製造消費市場」に向かって「分業の図式」を追いながら、ウールを生産する人々が一体どんな役割を果しているかを観察してみたいと思います。ウールの生産は南半球の春、羊の出産とともに始まります。

(1)剪毛(せんもう)

毛刈りのことです。羊は年1回春に出産し、一部秋に出産することもありますが、出生後約16カ月から18カ月で一人前に成長します。南半球の春から夏にかけて(8月頃から寒冷地では翌年の4〜5月頃まで)1年間に成長したウールを必ず刈り取らなければなりません。余り長い間刈り取らずに放置しておくとウールが密生して羊は呼吸困難におちいって死んでしまう「おそれ」があるからです。1人前に成長した牝羊あるいは去勢した牡羊から1頭1頭電気バリカンを使って私達の頭髪を刈るのとまったく同じように、手作業でウールを刈り取るのですが、この作業のことを剪毛、英語でSHEARING(シェアリング)と呼びます。「毛刈り職人」(SHEARER=シェアラー)は「牧場主」からの委託を受け、数人のチームを組んで、毎シーズン必ず同じ頓になると「春の訪れ」を告げるために牧場にやって来ます。牧場で「剪毛作業」が続いている間は、羊の脂がしみ込んでベトベト光っている床の上に「敷わら」をしいて、着のみ着のまま毛布をかぶって泊まり込みます。飼育されている羊の頭数によって牧場で泊まる期間は違いますが、”羊の散髪屋さん”の作業が終わると、給金をもらって陽気な笑い声をたてながら、またボロボロの毛布を肩にかついで次の牧場へと消えてゆきます。早朝から日暮まで、電気バリカンの音を牧場の空に響かせながら「毛刈り職人」達が手際よく羊のからだからウールを刈りとって袋に詰める作業が続くと、いつもは犬か羊の鳴く声以外は何も聞こえない静かな牧場が、いっペんに賑やかになって、人々の顔が活気を帯びてきます。この「剪毛作業」は春の訪れとともに暖かい北部の牧場から始まって、だんだん南部の寒い牧場の方に降りてゆくウール生産の「収穫期」であり、同時に「ウールシーズンのスタート」なのです。

(2)仕分け作業(クラッシング)

刈り取られた1頭分のウールは、羊の血統種、羊の年令、色相、繊度(繊維の細さ)、繊維長、強伸度、植物性繊維夾雑物(VM)の混入度などの、ウールがもっている本来の特長(ウールの「キャラクター」と呼びます)に従って手作業による「選り分け」が行なわれます。この手作業のことを英語でCLASSING〈クラッシング)といいます。それぞれグループごとに仕分けられたウールは1頭分ずつたたみ込まれて牧場名がプリントされている大きな袋に詰められプレス機で梱包されます。羊が自然に与えられウールに本来備わっている特長(「キャラクター」)に従って分類された結果のウールのグループ区分を「タイプ」と呼んでいます。同じ「タイプ」に属するウール俵をまとめて牧場から競売市場に近い倉庫に出荷し、ウール俵を代表する見本や品質の検査資料を揃えて競売準備を整えた上で、やがて開かれる競売市場への出市を待つことになります。ウールに本来備わっている「キャラクター」をこのように「タイプ」ごとに選り分ける「クラッシング」作業は、視覚と指先の感触によって経験と感性だけで19ミクロン、20ミクロンという非常に細いウールの繊度を選別する熟練度の必要な仕事です。しかも生産されたウールの「キャラクター」を性状・色相・手ぎわりだけで品質を評価し「タイプ」別に区分するのですから、ウールの生産者にとっては、1年間の生産結果を集約する非常に専門視されている”手作業”です。この「クラッシング」を行なう職人を「クラッサー」と呼んでいますが、牧場主がこの仕事を兼ねていることが多く、彼等の”手作業”によって1年間の牧場管理の仕事が総括されるので、ウールの実質上の生産はこの”手作業”でもって終了するわけです。

(3)牧場主(グローワー)

「グローワー」(GROWER)はウールの生産責任者で牧場の所有者ないし牧羊管理の最高責任者です。「グローワー」は多くの牧童や犬とともに、まるで自分の幼い子供達と接するように羊と一緒に生活し労働します。旱魃(かんばつ)、洪水のような天候や季節の変化に対して注意を払い、野獣の襲撃や疫病の流行から羊を守っています。毎日の飼料や牧草の生え具合まで気を配りながら羊を移動させて健康や発育の状態を見守っているのです。世話を怠って放っておけばすぐウールが劣化して「キャラクター」が失われてしまうので、健康で良質の種羊を入手して交配させ、たえず羊の血統種を改良することは「グローワー」にとってもっとも大事な仕事のひとつです。(この仕事を「ブリーディング」といいます)。シーズンごとの飼育条件や環境条件によっては刈り取ったウールの品質が貧弱になったり、不揃いになったりする「キャラクター」を何時も変動しないよう維持するために、日夜涙ぐましい努力を続けている牧場主は、羊に対してある時は父親、ある時は母親以上の役割を果たしている存在かもしれません。

資料1 世界の原毛生産量(脂付き)と国別シェア

 国名198019901991199219931994シェア
*オーストラリア7091,1001,06687586982829%
 旧ソ連44347444140137531211%
*ニュージーランド33731130529625628410%
 中国1762402402382402559%
*アルゼンチン171149136121114983%
*ウルグアイ6794948488903%
*南アフリカ103971028278773%
 トルコ8083777575753%
 パキスタン3963646667702%
 イギリス5172696969672%
*南半球5大産毛国計1,4071,7511,7031,4581,4051,37749%
 その他とも世界総計2,8793,4103,3033,0012,9102,814100%

* 南半球 単位:100万キロ 出所IWS WOOL FACTS 1995

資料2 世界の原毛輸出量と国別シェア

 国名198019901991199219931994シェア
*オーストラリア55651374970667666149%
*ニュージーランド27420223521521324618%
 旧ソ連412816695%
*アルゼンチン8156463646544%
 イギリス1740323538443%
*南アフリカ6250493430312%
*ウルグアイ4137262526252%
 フランス4425302521242%
 香港2472122232%
 モンゴル171110915192%
*南半球5大産毛国計1,0148131,1001,0169911,01776%
 その他とも世界総計1,1951,0671,3111,2441,2381,341100%

* 南半球 単位:100万キロ 出所IWS WOOL FACTS 1995

資料3 世界の原毛輸入量と国別シェア

国名198019901991199219931994シェア
中国293110214917320216%
イタリア11811913814512214812%
イギリス9688931029612710%
フランス11799127122921139%
日本1761431531461091089%
ドイツ9377879782927%
インド1320292839575%
台湾2831615355504%
アメリカ3333394146423%
韓国2334373835403%
その他とも世界総計1,1489931,1841,2111,1081,251100%

単位:100万キロ 出所IWS WOOL FACTS 1995

資料提供:ザ・ウールマーク・カンパニ ー(IWSマンスリー連載より)