ウール繊維についてのレポート

「純毛毛布はアクリル毛布よりも暖かい」とか、「ウールキルトとポリエステルキルトを比較するとウールキルトの方が就寝者にとって、数段快適である」と云うことは長い間、常識とされてきた。

その理由を、羊毛繊維の表面がキューティクルと云う名の疎水性物質で、内部がコルテックスと云う名の親水性物質で構成されていると言う、他の繊維には例を見ないこの不思議な羊毛繊維の構造に起因していること。しかも、その飽和吸湿量がずば抜けて大さいこと。さらに、「ウールは暖かい」と云うことは良く知られているが、羊毛繊維の上記の性質が清涼感を醸し出す働きをしていること。

等々、興味深い内容について、西独のホーエンシュタイン研究所が実験によって、この事実を科学的に証明している。

ウールふとん
ウール
クリンプ

今回はこのレポートについて紹介する。

純毛毛布とアクリル毛布、並びにウールキルトとポリエステルキルトの保温性についての比較

このレポートは「INTERIOR TEXTILES TECHNICAL INFORMATION LETTER No13」を訳したものです。

要約
ドイツのホーエンシュタイン研究所(Hohenstein Institute)において、全く同じ仕様で造った純毛毛布とアクリル毛布の保温性についての比較試験を行った。

その試験はスキンモデル(*1)とマネキン(*2)を使った2つの客観的評価試験と被験者に実際に着用して比較してもらう主観的評価とで行われた。

その結果は、純毛毛布の方がアクリル毛布より保温性において数段勝っていることが確認された。その理由は、主として純毛毛布の吸・放湿性の良さと、実用試験では環境条件を23℃と、高い温度に設定したにもかかわらず、純毛毛布の場合には毛布と被験者との間の寝床内温度を非常に良い状態にコントロールしてくれることにある。

ウールが暖かいと言うことについては良く知られているが、ウールの清涼感についても立証された。これは、羊毛繊維が、表面は疎水性であるが、内部のコルテックスは親水性であると言う不思議な羊毛繊維の構造に起因している。

厚さは違うが、同じ目付けにしたウールとポリエステルのキルトについてスキンモデルを使って試験したところ、毛布の場合と全く同じ結果が得られた。ウールは吸湿性か良いので、中わたにウールを使用したキルトの方がポリエステルを中わたに使用したものよりも快適であるのは当然のことである。

(*1)スキンモデル(訳者註)
寝具の熱伝導性、水分移動特性、水分透過度、吸水率等々を測定するために人間の皮膚をシュミレートした物で、発熱量、発汗量を自由に設定する事ができる。

(*2)マネキン(訳者註)
人間が就寝した状態での寝床内気候を測定するための銅製のマネキン人形。発熱量、発汗量を自由に設定することが出来る。人間が実際に寝た場合に最も快適性が期待できる寝具の開発等に使用する試験装置。

1. 緒言

本報告書はドイツのホーエンシュタイン研究所で行った純毛毛布とアクリル毛布、並びにウールキルトとポリエステルキルトについての保温性の比較試験の結果(報告No82Bll16)をまとめたものである。
この内容についてはK.H.Umbach博士によってMelliand TextilberichteNo2或いはNo3に発表、掲載される予定になっている。
試験結果を詳述するに先立って、快適性に影響を及ぼす要因について列挙する。繊維製品の快適性は主として次ぎのような要因が関与する。

a)触感の良さ 例えば手触り感
b)暖かさ

これは主として身体と被服との間での熱の移動の良し悪しによって決まる。理想的には、熱と湿気の移動は各々のエネルギーがバランスするまで起こり、その結果、就寝者の肌と寝巻きとの間の温度と湿度が調節され”快適な状態”となることである。そこには、熱伝導性と吸湿性という二つの因子が暖かさの快適性を決定付ける要素となっている。

(i)熱貫流抵抗値(*3)
殆どの繊維製品は体積比で60〜90%の空気を含んでいる。空気の熱貫流抵抗値は繊維の6倍以上の大きさを持っている。したがって、織り物の熱貫流抵抗値は素材の種類よりも圧倒的に織り物の中に含まれている動かない空気の層によって決まる。織り物の構造や厚さは、織り物の目付けや素材の違いよりも熱貫流抵抗にとって、ずっと重要な要因となっている。スケールやクリンプのように空気の含有量を増やすことに役だっているような繊維は織り物の熱貫流抵抗値の改良に寄与している。

(*3)熱は暖かい方から冷たい方に動くと言う法則性を持っている。寝具1㎡当たり、温度差1℃につき1時間当たり(h)何キロカロリー(Kcal)の熱が逃げるかをKcal/㎡h℃で表し、これを熱貫流率(K)と呼んでいる。数値が小さいほど熱が流れにくく、断熱性が高いことを表している。この逆数(1/K)を”熱貫流抵抗値(R)”と言い、数値が大きい程、断熱性が高く熱が流れにくいことを示している。すなわち、熱が流れ易いか、流れ難いかを示す指標で、”熱抵抗”、”熱伝導抵抗値”などとも云う。

熱貫流抵抗値(tog(*4)/cm、25℃、65%RH)

空気3.85
ポリプロピレン0.85
ポリエステル0.60
ウール0.52
アクリル0.51
ナイロン0.41
ヴィスコース0.35
コットン0.22

(出所:Norwegian Textile Institute)
tog(訳者註)
熱貫流抵抗値を表す一単位
1tog=0.418㎡sec℃/cal
=0.1163㎡h℃/Kcal
1㎡h℃/Kcal=8.6tog

(ii)湿気の移動抵抗
不感常泄(*5)
静止した状態の下でも標準的な人は1日に500ml位の水蒸気を体内から発散している。

発汗
活動している状態下での発汗は1時間に1リットルにも達することがある。

人間は常に皮膚から水蒸気を放出している。これを不感常泄と呼ぶ。その量は安静状態でも平均的な大人で、1時間当たり30g位と言われている。したがって、一晩に牛乳瓶1本分位の水分を身体から発散していることになる。

上記の水分移動メカニズムの内、ウールはどの方法で行われるのであろうか?

羊毛は非常に不思議な構造をしており、他の繊維がせいぜい2%位の水蒸気しか吸わないのに、ウールは非常に良く吸収し、30%以上の湿度を吸っても湿った感じを出さない。また、羊毛繊維は吸収した水分を外部に放出する働きもしている。したがって、ウールは水分の分配とわずかの凝集の役目をしていると見ることが出来る。

1mmの厚さを通す水蒸気の移動抵抗

繊維係数
羊毛繊維100
セルローズ繊維127
ポリエステル繊維125
アクリル繊維120

[出所:IWS]推奨

羊毛繊維の表面は、汗のような水滴に対しては疎水性である。したがって、汗を肌から毛細管現象によって吸い上げるのではなく、肌から蒸発したものを吸収するのである。ウールの水蒸気に対する吸収性の良さが肌から水分の蒸発を促し、その結果として肌を冷やす働きとなるのである。

また、羊毛繊維の表面が疎水性であると言うことは、ウール製の布帛であれば濡らすことが無く、織り物の中まで汗をしみ込ませることがない。したがって、ジメジメした嫌な不快感を与えない。

表面は疎水性であるのに内部は親水性であると言う羊毛繊維のこの水分制御機能が寝床内の湿度を低く保ってくれるのに役立っている。

空気中の湿度が高くなるにしたがって、空気の熱貫流抵抗値を著しく減少させ、しかも、不感常泄を妨げることになる。

この両方ともが暖かさに関する快適性を悪くする要素であり、寝具の快適性に非常に重要なことである。
羊毛繊維の吸湿性の良さが、空気の熱貫流抵抗値を非常に良い状態に維持してくれていると言うことを忘れてはならない。

空気の湿度と熱貫流抵抗値の関係

湿度(RH%)熱貫流抵抗値(tog/cm)
04
653
1001.5
液体0.15

(出所:A.Missernad 「気体と液体の熱特性」)

表面はキューティクルと言う名の疎水性物質で、内部はコルテックスと言う名の親水性物質で出来ている、この不思議な形態をした羊毛の構造が寝床内の湿度と温度をうまく調節し、就寝者を快適な状態に保ってくれているのである。